[7]腹が減っては恋はできぬ
渚さんという優しいおじさまがオーナーをしているアパートメントの1階に入っているカフェ『Maugham( モーム )』は昼と夜はカフェだけど深夜になるとバーになるらしい。
今は夜なのでまだ夜カフェの時間だ。
拓也さんと一緒にモームに入る。
ぶっちゃけオタクっぽくてタイプじゃないけれど、せっかくのご好意だしお隣さんだから仲良くしたいしと思い晩ご飯を一緒に食べることにしたのだ。
「お!七瀬ちゃんと拓也くん。いらっしゃい。」
手招きされてカウンター席に座る。
「なんだ、もう一緒にご飯食べに来る仲なの?」
からかうように笑いながらメニューを手渡してくれた。
「ち…違いますよ!!」
「渚さんっ!」
慌てて否定すると拓也さんも慌てたように続いた。
「ごめんごめん。まあでも隣人で仲が良いっていうのは大事だよ。何かしら縁があって隣になったんだしね。」
優しい笑顔でそう言われて心の中で渚さんとも縁があったからこのアパートメントに住めたんですか?って思ってしまった。
拓也さんよりも渚さんの方が優しくて包容力がありそうで、どちらかというとタイプだった。だけど年齢が離れ過ぎてるからなぁとひとりごちる。
渚さんオススメのディナープレートを食べながら話してみると拓也さんはIT関係で働いているらしくてパソコンや電子機器とかを扱っているらしい。色々な説明をしてくれたけど、複雑で難しい単語がたくさん出てきて私にはちんぷんかんぷんだった。
「そういえば七瀬さんってどんなお仕事してるんですか?」
食事が落ち着いてきた頃に、不意に話を振られて少しだけ戸惑う。
「…実は私、小説家なんです。」
まだ卵なんですけどね、と付け加えると、拓也さんが目を丸くした。
「へぇ!どんなストーリー書いてるんですか?」
「恋愛ものが多いです。失恋ものとか復縁ものとかそういうのがメインです。」
「すごいですね…!小説家なんて周りいなくて尊厳しますよ。」
「ううん、…でも本格的なデビューした訳じゃないの。たまに雑誌で短い連載もったり時々小さな賞を貰うくらいで全然まだまだなんだ…。」
「それじゃ、もしかして別に仕事とかしながら小説書いてるんですか?それだけじゃ生活なんて出来ませんよね?…大変ですね。」
ストレートに言われて拓也さんに悪意がないことも分かってるけどグサリと来た。小説家を目指している事を伝えても、連載を持っている頃にも小説家としてなんて食べていけるの?とよく聞かれる。それ1本で食べていけるようになりたいから今努力してるけど、側から見たときに結果が出てなかったら、悔しいけど、そう思われても仕方ないよね…。
「今は書店員をしながら目指してる感じです。大変って思う時もあるけど、やっぱり好きだから頑張りたいんです。」
出来るだけ笑顔を浮かべて答えた。