[3]愛なしには生きれない女たち
彼とふたりでいた頃は楽しかった夜もひとりっきりになるとこんなにも辛いものだと思ってなかった。失恋したことを誰にも言えなかった。だってあんなに幸せだったから。知られたくなかった。そして改めて彼と別れてしまったことを認めてしまうのが怖くて避け続けていたのだけれど、とうとうある夜に孤独に耐えきれなくなった。そんな時に私が連絡出来るのは、数々の私の失恋を隣で見てきては、良質な合コンや良い男がバーテンをしてるBARに連れ出してくれたり、マッチングアプリで様々な男を渡り歩く恋愛好きの中の恋愛好きのユリだった。
何気ない風を装ってLINEを飛ばす。そしたら流石恋愛マスター、ものの数分でLINEで返事ではなく電話がかかってきた。
「…遅くにLINEしてごめんね、ユリ。」
「あんた男と別れたでしょ?」
開口一番に見事に言い当てられる。エスパーなの?恋愛に特化した人間は人の気持ちを察する能力が高いらしい…。
「…なんで分かったの?」
はぁとため息をつく音が聞こえた。
「そりゃ男がいる女は、こんな時間に女友達に連絡なんてしないでしょ?こんな時間に女友達が連絡する時は浮気を見つけた時か別れた時くらいよ。」
それで、と言葉を続ける。
「あんたの男は浮気するような奴じゃないから、別れたんだなって思ったのよ。」
「当たってる…、別れちゃったよ。」
辛い説明をしなくてもいい気持ちと、彼と私以外が知ることで改めて突きつけられたリアルな別れが私の胸に突き刺さる。まだギリギリと締め付けられる。恋愛上手な女はこうやって様々な辛い恋愛を乗り越えてきたから同じ女の痛みを瞬時に理解してくれるのだろうか。
ぐずぐずと泣きながら鼻をかむ。女友達の良いところってこういう情けない姿でも素直にさらけ出せるところかもしれない。泣いちゃってごめんねと謝る私にユリは少し笑いながらいいよと言ってくれた。
「男で傷ついた心は男でしか埋まらないけど、まだ新しい男に行けるパワーがない時は女友達に頼っていいんだよ。それが女友達だから。」
そうやって私の失恋の度にうまく聞きなら穏やかに流してくれるので私にはすごく心地が良かった。
「ユリが男なら…結婚したかった。」
ぽつりと呟いた言葉にユリが笑った。
「女は女と付き合った方が心理的な安心得られるかもね。してほしい事を一番理解してるから何をしたらいいのかをちゃんとわかってるしね。」でもね、と続けた。
「それでも私たちは、どうしようもなく恋愛バカだから傷ついても傷つけてもまた懲りなく恋愛しちゃうよね。」
何回も失恋して傷付け合って少しずつ付き合い方が上手くなっていって、それでもたまに愛されてないんじゃないかって不安で何回も確認して暴走しちゃったり難儀な生き物だ。
「なんで分かってても、恋愛しちゃうのかな、私たちって…。」
「そりゃ愛がほしいからでしょ。愛されて生きてる実感が湧いたり幸せを感じたり。愛なしじゃ生きれないから毎回同じところでぐるぐる回っても、たった一人死ぬほど愛してくれる男と出会う為に踠いてんだよ。」
その言葉でまた泣いてしまった。そうなのだ。私たちは愛なしじゃ生きられない。知ってしまったから。一時でも愛された事があるから。それがどんなに愛おしくて大切なものなのか、生きてる価値をくれたのか実感してしまったから。だけどその愛はたったひとりからしかいらない。ぴたりと溝が埋まるみたいに、元々は一つだった魂とか体が探し求めてたもう片割れに巡り会えて、やっと一つになれたようなあの強烈で目の眩むような心地よさを探しているんだ。なんだか少しだけ心の中にすとんとした感覚を得た。
「ありがとうユリ。なんかすごく分かった。うまく言えないけどね。」
「いいよ。私が失恋した時だって朝まで付き合ってくれたじゃん。」
近々、カフェで会う約束を取り付けて、あとはまた少し会話をしてから電話を切った。
さっきまでの傷ついた気持ちから少し軽くなった心がなんだか嬉しかった。愛なしには生きれないから、どうしようもなく愛を求めてしまう。私たちは愛されないと生きられないから。それから彼に恋してた私と、私を愛してくれた彼のことを考えて少し切なくなった。